仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「生きがいを追い続ける」
熊谷 和徳が語る仕事--4

就職活動

「今」と真剣に向き合おう

仕事の枠を超え、どう貢献するか

僕が19歳の頃、将来の仕事について様々なアドバイスを受けました。多くの言葉の中で最も役立ったのは、「これが正しいという答えは一つもない」というものでした。誰も将来のことなんか分からない、だから自分の本能や感覚に従って生きていくべきだと自分なりに解釈しました。
 
まさに新型コロナウイルス禍の今、これからの時代にも言えることではないでしょうか。現在、僕はロックダウンただ中のニューヨークにいます。今年予定していたアメリカ、ヨーロッパ、日本での全ての仕事が延期または中止となり、今後の展望は全く見えません。一日、一日と状況の変化を注視しながらの生活ですが、仕事のみならず、あらゆる価値観がこれからガラリと変わっていく時代が来るのではないかと感じています。
 
今日までに3回のこのコラムで、タップダンスがどれだけ僕の情熱の源であったかをお伝えしてきました。でも、思いっきりタップが踏めないこの状況は、本当に無力感にさいなまれる日々です。「仕事」という生き方を失った今、毎日自分に向き合っていかなくてはなりません。それは、弱い自分をしっかりと見つめる大切な時間でもあり、僕が身にまとっていた全てのステータスを脱ぎ、人としての根源的な価値観を見直す時期なのだと受け止めています。
 
もしかしたら、僕らは「仕事」以上に大切な何かを見いださなくてはならず、その上でもう一度、本当に自分の仕事の意義を自問自答しなければいけないのかも知れません。なぜなら僕らの命は、それぞれが「本当の自分の人生」を生きるためにあるのですから。
 
僕自身は、今はじっと次にやるべきことに向けて充電する時期だと考えています。それは、今まで通りに戻るという考え方ではなく、この状況を経験した自分にこれから何ができるかという日々の自問です。タップダンサーという枠さえも飛び越えて、一人の人間として何か人の役に立てないだろうかと。もちろんタップダンサーとしての精進は、当然生涯貫いていきます。更に、これだけの困難を抱える世界のために僕は一体何ができるのか。真っさらな地平線の上に立っているような気持ちです。

前向きなエネルギーを放って欲しい

これから仕事を見つけていく人たちには、この状況の中にあっても、いつもポジティブな何かを見いだして情熱を燃やし、更にそれを伝播させていって欲しい。前向きなメッセージでしか、この時代を一層良くしていくことはできないと思う。そして、新たな時代を創造していくエネルギーを放って欲しい。また現在、職を失い、先の展望も見えない多くの方々のために、しっかりと国が補償をして欲しい。それは、これからの「仕事」を語る上で根本的なことではないでしょうか。
 
世界中の人たちが同じ苦難を乗り越えようとしている努力は、今後の時代に必ずプラスに生きてくると信じています。本当に大切なのは、どれだけ真剣に向き合い、考え、立ち向かって、国として個人として成熟していけるかでしょう。僕自身もこれから、本当の「仕事力」を試されるのだと思っています。(談)

くまがい・かずのり ●タップダンサー。1977年宮城県生まれ。ニューヨーク大学心理学科卒業。15歳でタップダンスを始め19歳で渡米。プロによるトレーニングや独自の活動などで修業を積み、「ザ・ニューヨーク・シティー・タップ・フェスティバル」に9年連続出場。「日本のグレゴリー・ハインズ」と称され、「世界で見るべきダンサー25人」にも選ばれる。オーケストラとの公演を始め日米で公演多数。2014年の「Flo-Bert Award(生涯の功績を称える)」賞受賞など多くの賞に輝く。
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